認知症対策としての「家族信託」

認知症になると、財産管理ができなくなると言われます。なぜ認知症になると財産管理ができなくなってしまうのか。認知症対策としてなぜ家族信託が効果的なのか。法律と家庭の知っておきたい知識を優しく解説します。

認知症になると財産管理にどんな影響があるのか

自分が認知症になった場合、影響を受けるものが3つあります。

1つは自分。認知症になると、認知症だという診断を受ける前とは、日常生活が変わってくることでしょう。2つ目は家族。認知症の診断を受けたあとは、家族が主となって生活のサポートをするケースが多いはずです。家族の生活も、多かれ少なかれ影響を受けることになります。

影響を受けるものの3つ目が、財産管理です。認知症になると、財産管理が難しくなります。

認知症になると自分の財産でも自由に管理・運用・処分ができない

認知症になると判断能力を失ったと解釈され、財産の管理に制限を受けます。具体的には、次のような財産関係の手続きを自分で行うことが難しくなってしまうのです。

1.預金の引き出しや送金

2.有価証券の売買

3.不動産の売却

4.不動産の建て替えやリフォーム

5.賃貸不動産の入居者との契約更新

なぜ認知症になると財産管理ができなくなるのか

基本的に、自分の財産は自分で自由に管理運用できるはずです。それなのに、認知症になるとどうして自由に売却や運用、処分、手続などができなくなるのでしょう。認知症になると財産管理が制限を受けることには、きちんと意味があるのです。

財産管理が制限されるのは、認知症になった本人を守るためです。うっかり同じものを買ってしまったり、大切な住居を売ってしまったりすると、大変です。認知症であることを利用され、一方的に財産をだましとられてしまうかもしれません。

判断能力を失っている状態で財産を管理することには、大きなリスクがあるのです。そのため、認知症になると、「本人と財産を守るために」財産管理に制限がかけられることになります。

財産管理ができないと生活費や医療費の準備も困難になる

本人が本人名義の財産を管理できなくなると、生活費や医療費などの工面も難しくなります。たとえば、本人名義の銀行口座から毎月の生活費を出金していた場合はどうでしょう。今までは本人が出金していました。しかし、本人が認知症を患ってしまったため、手続きができません。家族が代わって手続きをしようとしても、基本的にできないのです。

本人名義の財産を動かせるのは、基本的に本人になります。出金ができなければ、生活費の工面ができません。本人が一人暮らしだった場合は、子供や親族が生活費を用立てる必要が出てくることでしょう。同居して認知症になった本人の財産でやりくりしていた場合は、家族全員の生活が困窮する可能性すらあります。

医療費や老人ホームへの入居費が必要になっても、家族が本人の財産を動かせないために、お金の準備が難しくなってしまう可能性があるのです。「当たり前のようにできていた財産管理」ができなくなることは、生活において大きな問題になります。

財産管理ができないとお金を作ることや契約・建て替えでも不都合が

認知症になって財産管理ができなくなると困るのは、出金だけではありません。お金そのものを作ることも難しくなってしまうのです。

たとえば、老人ホームの支払いのために、まとまったお金を作りたいと家族が考えました。本人(認知症を患っている人)名義の不動産を売却して資金を作ろうと考えましたが、売却できないと断られる結果に。不動産は、家族が代わって売却できないのです。しかし、本人は認知症を患っています。本人も手続きできないため、不動産売却でまとまった資金を作ることができません。

不動産の契約や立て替えでも不都合が生じます。本人が賃貸不動産を運用している場合、住人の契約更新も難しくなり、運用が停滞してしまうことでしょう。自宅の名義が本人の場合は、自宅の建て替えも難しくなります。住宅ローンを組むことも困難なため、資金調達という面でも影響が出るのです。

認知症対策には「家族信託」が有効である

認知症対策には、あらかじめ家族信託の契約を結び、いざというときに家族が財産管理できるようにしておく方法が有効です。

家族信託を使えば、家族が契約にもとづいて財産の管理ができます。もしものとき家族がお金や不動産の管理・運用・処分をするための下地になるのです。「本人が当たり前のようにできていた財産管理」を家族ができるようにしておけば、本人と家族の生活を守ることが可能です。

認知症になってからだと家族信託は使えないため、認知症になる前に「対策」として家族信託の契約を結ぶことが重要です。将来への不安がある人は、早めに財産管理や家族の生活について考えてみてはいかがでしょう。

最後に

家族信託は認知症の対策として有効な方法です。

「本人が当たり前のようにできていた財産管理」を家族に信じて託すことは、財産や生活を守ることに繋がります。

家族信託は財産管理について本人や家族の希望を柔軟に盛り込むことが可能です。早め早めに対策して、将来的な憂いをなくしておきましょう。