生前相続対策の遺言・生前贈与・家族信託の3つの方法

相続に対して「トラブル(争続)を防ぎたい」「希望通りの相続を実現したい」「特定の相手に渡したい遺産がある」という場合、生前に相続対策しておくことが重要です。生前に相続対策を何もしないと、基本的に法律通りの相続(法定相続)となってしまい、ニーズにあわせた相続が難しくなります。

生前の相続対策にはどのような方法があるのでしょうか。相続対策に使える遺言・生前贈与・家族信託の3つの方法について説明します。

生前相続対策 その①「遺言」

生前相続対策の代表的な方法としてよく取り上げられるのが「遺言」です。遺言は法律で定められたルールに則って生前に「遺言書」としてまとめておき、相続が発生したら遺言書に沿って相続を行うという方法になります。

実家を長男に相続させたい場合や、預金はすべて相続人の1人に相続させたい場合など、被相続人(亡くなった人、遺言書をしたためた人)の望む相続を死後に実現する方法として使われるのが遺言です。3つの生前相続対策の中では「死後に意思を遺す方法」という位置づけがなされています。

遺言書には、自分で作成できる「自筆証書遺言」や公証役場の協力のもとで作成する「公正証書遺言」「秘密証書遺言」などの種類があり、ニーズにあわせて使いわけられています。

遺言で生前相続対策をするメリットとデメリット

遺言で生前相続対策をするメリットは「財産の持ち主が相続への意思表示ができる」という点です。死人に口なしという言葉があるように、死んでしまうと相続時の遺産分割に意見することができません。

特定の相続人に遺産を継いで欲しい。長男に実家を相続して欲しいなど、遺言書を通して財産の持ち主である自分の意思・意見をはっきりと表明し、相続に活かすことができる点は大きなメリットです。

ただし、「遺留分に注意しなければならない」「二次相続への対処が難しい」というデメリットがあります。

遺産は相続人の生活に直結する財産なので、「必要最低限の取り分」である「遺留分」が定められています。遺留分を侵害する遺言書も無効にはなりませんが、「必要最低限の取り分を渡して欲しい」と遺留分減殺請求をされる可能性があるのです。

また、遺言による生前相続対策では、二次相続対策が難しいというデメリットがあります。二次相続とは、相続の次の「2番目の相続のこと」です。相続人が子供だった。その子供(相続人)が亡くなれば、子供から孫へ相続が発生する。この場合の子供から孫への相続が二次相続にあたります。

遺言で対処できるのは、基本的に自分の遺産の相続(最初の相続)です。自分の遺産を相続人から孫へ受け継ぎたいなどの場合は、自分の遺言だけでは対処が難しいというデメリットがあります。

生前相続対策 その②「生前贈与」

生前贈与とは、相続が発生する前(生前)に財産を子供や孫に贈る方法になります。賃貸不動産を子供に譲ることや、住宅取得金額としてまとまったお金を子供に渡すことなどが生前贈与の代表例です。

相続の前段階で推定相続人(相続人になると推定される人)に財産を渡すことにより、相続発生時の相続財産や財産を受け取る人、税金などをコントロールすることが可能になります。

生前贈与で生前相続対策をするメリットとデメリット

生前贈与には要件を守ることにより贈与税を軽減できる特例制度も用意されているため、計画的に生前贈与することにより、相続税の節税効果も期待できます。何より、「自分が財産を受け取って欲しい人に贈与という手法をとることで確実に財産を渡すことができる」「相続発生前に財産的な援助もできる」という点が、生前贈与のメリットです。

デメリットは、贈与後の財産管理・運用・処分を指示しにくいことです。

あくまで「あげます」「もらいます」で財産を渡すのが生前贈与です。財産は、財産を受け取った相手のものですから、厳しい指示ができません。財産を管理運用して将来的に孫に渡すなどの財産管理・運用・処分の希望がある場合、贈与では希望を叶えることが難しいというデメリットがあります。

生前相続対策 その③「家族信託」

家族信託とは、受託者・委託者・受益者の3者で結ぶ財産管理・運用・処分の契約のことです。

委託者が財産を預け、受託者が預かった財産の管理・運用・処分を契約内容に沿って行います。受益者は利益を受ける存在です。必ずしも3人の人間が登場する必要はなく、委託者と受益者は同一人物でも差し支えありません。家族信託は信託の中でも「家族に財産管理を信じて託す」制度なので、主な登場人物は家族になるという特徴があります。

体調や判断力に不安があるため、賃貸不動産をはじめとした自分の不動産を息子に管理してもらいたい。自分の預金を配偶者に管理してもらいたい。相続後の財産管理も設計したい。このようなニーズを持つ場合は、家族信託が有効です。

家族信託で生前相続対策をするメリットとデメリット

家族信託のメリットは、二次相続の対策ができることと、財産管理について柔軟に対処できることです。

遺言では、二次相続対策が難しいというデメリットがありました。生前贈与も基本的に「あげます」「もらいます」の関係なので、贈与後の財産に細かな注文をつけることが難しいというデメリットがあります。家族信託を使えば、遺言や贈与のデメリットを上手くフォローすることが可能です。

家族信託を使えば、子供に財産管理をしてもらいつつ将来的には孫へというニーズや、財産管理・運用・処分についても自分の意思を反映させるというニーズを叶えることができます。家族に託すことで、安心して管理を任せることも可能です。ほかの生前相続対策と違って、財産管理を家族に信じて任せるという特性上、相続前の認知症対策にもなるというメリットもあります。

家族信託の大きなデメリットは、認知症などの判断力が欠けてしまう前に契約しないと、家族信託の活用ができないという点。判断力が欠如してしまうと、契約を結ぶことが難しいからです。

最後に

生前相続対策には3種類の方法があります。

生前相続対策では、どれか1つの方法を選択しなければならないというルールはありません。3つの方法を適切に利用して、それぞれの方法のメリットを活かし合うこともできるのです。メリットを活かしあうことで、ニーズに合った相続を可能にします。

当協会の専門家に相談し、オーダーメイドの相続計画を立ててみてはいかがでしょう。