相続の手続きとながれとは
相続が発生したらどのようなながれでどんな手続きをすればいいのでしょうか。家族信託を有効活用するためにおさえておきたい「相続のながれと手続き」について解説します。
相続開始後の流れと手続きについて
相続は人の死によって始まると民法882条に定められています。よく勘違いされがちですが、相続は相続手続きをしたときが相続ではなく、家族が亡くなったときにすでに始まっているのです。
人がいつ亡くなるか事前にわからないからこそ、「死によってスタートした相続」の後追いのようなかたちで相続手続きをするという特徴があります。
相続は人の死と表裏一体。相続が起きてから「どうすればいいのだろう」と困惑することが少なくありません。まずは、相続のながれから簡単におさえておきましょう。
税金と法律の2つの面から、相続のながれについて確認します。
1.被相続人の死亡(相続の開始)
被相続人の死によってスタートする相続。被相続人の死は、相続の手続きやながれの全体の中でもスタート地点にあたります。
被相続人が亡くなった場合、自治体の窓口に「死亡の事実を知った日から7日以内」に死亡届の提出が必要です。葬儀の準備や相続の準備も同時並行で進めることになります。
2.遺言書の確認
相続手続きのスタートは、「遺言書を探すこと」です。自筆証書遺言の場合は、被相続人の遺品にまぎれている可能性があります。公正証書遺言などの公証役場で作成した遺言書の場合は、公証役場で検索することも可能です。
遺言書があれば、相続は遺言書に沿って行うことが基本になります。見逃してしまわないように、慎重に探すことが大切です。わからない場合は、早めに法律の専門家に相談しましょう。
遺言書の種類によっては裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。
3.遺産と相続人の確認
遺言書の有無を確認したら、遺産や相続人の確認を行います。遺言書探しと遺産や相続人の確認は同時進行で行っても差し支えありません。
遺産については、被相続人のプラスの財産(預金や不動産、有価証券など)とマイナスの財産(借金や税金の滞納分、未払いの医療費など)を確認することになります。プラスとマイナスのどちらが多いか。どのような遺産があるのか。以上の点が、相続方法の選択に深く関わってきます。
4.相続方法の選択
相続財産のプラスやマイナス、相続人がはっきりしたら、相続方法を選択することになります。相続人同士でよく話し合い、適切な方法を選ぶことが重要です。なお、遺言書がある場合は、遺言書に添った相続手続きが基本になります。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産のわけ方を話し合って決める相続方法になります。
たとえば、相続人全員で「実家は長男が相続する。預金は次男が相続する」などと協議で決めた場合がこの遺産分割協議という相続方法です。遺言書が被相続人の意思と都合による相続なら、遺産分割協議は相続人の意思と都合による相続になります。
遺産分割協議で決めた内容は遺産分割協議書にまとめ、金融機関や法務局の相続手続きに利用するというながれです。
法定相続
法定相続とは、法律で定められた通りに相続する方法です。
民法には相続人の順位と、相続ケースごとの法定相続分が定められています。法定相続の場合は、法律の定めに従って遺産をわけて相続手続きすることになるのです。
相続放棄
相続放棄は、遺産すべてを受け継がないという方法です。
相続放棄は裁判所でしか手続きできません。よく遺産分割協議で「遺産はいらないといった」ケースと誤解されがちですが、これはあくまで遺産分割協議であり相続放棄ではありません。
相続放棄をすると、その相続において最初から相続人ではなかったことになります。遺産に借金などのマイナスが多くても、相続人ではなかったという扱いになるため、受け継ぐことがなくなるのです。実際に、遺産にマイナスが多い場合はよく相続放棄が使われています。
相続放棄には「相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」という期限が定められているため、注意が必要です。
限定承認
限定承認も裁判所でしかできない手続きです。相続放棄と同じく、「相続の開始があったことを知った時から3カ月以内」という期限が定められています。
限定承認は、裁判所の管轄のもとで遺産の計算を行い、相続財産を責任の限度として相続するという手続きです。普通の相続では、プラスもマイナスもすべて相続してしまうことになります。相続放棄では、プラスもマイナスもすべて放棄するというルールです。限定承認は相続財産の範囲内で借金などの責任を負うことになります。
借金が多いのか少ないのかよくわからないというときによく使われる相続方法になります。
5.相続の手続き(名義変更など)
遺産分割にあわせて不動産の「名義変更」や預金の「払い戻し手続き」などを行います。預金などの払い戻しは金融機関の窓口が担当です。不動産の名義変更(相続登記)は管轄の法務局で行います。
このほかに、被相続人の所得について申告する「準確定申告」や、相続人の「相続税申告」などが必要になる場合があります。被相続人が事業を営んでいた場合は、「廃業届」などの提出も必要です。
最後に
相続は死によって開始します。葬儀や法要と相続手続きが重なってしまった結果、「まず何をしたらいいのだろう」と頭を抱える相続人は少なくありません。
生前に相続対策をしておくことで、相続人の負担を軽減することが可能です。生前の相続対策には生前贈与や家族信託などの方法があり、併用することもできます。
事情にあった相続対策をして、相続に備えておきましょう。