家族信託と成年後見人は、ともに「財産の管理が難しくなったときに他者からフォローしてもらう」という性質をもった制度です。しかし、制度の内容を見てみると、細かな部分が違っていることに気づかされます。家族信託と成年後見人には、どんな違いがあるのでしょうか。

家族信託と成年後見人の5つの違いを比較

家族信託と成年後見制度は財産管理をサポートしてもらうというよく似た性質を持っています。ただ、まったく同じ制度というわけではありません。家族信託と成年後見人には、大きく5つの違いがあるのです。違いを比較することで、自分や家族のニーズにはどちらが合っているかが見えてきます。

  1. 家族信託と成年後見人では登場人物が違う
  2. 家族信託と成年後見人は始まりと終わりが違う
  3. 家族信託と成年後見人では重視するものが違う
  4. 家族信託と成年後見人の身上監護の有無
  5. 家族信託と成年後見人は報酬が違う

家族信託と成年後見人では登場人物が違う

家族信託の登場人物は、基本的に委託者・受託者・受益者という3人の登場人物で構成されます。法律や税金の専門家などがサポートとして登場することもあるのですが、基本は3人の登場人物による財産管理・運用・処分の契約になります。

成年後見人制度には、家族信託のような委託者・受託者・受益者は登場しません。代わりに登場するのは、成年後見人・成年被後見人です。

裁判所が財産管理を監督するという都合上、登場人物として裁判所が少しだけ顔を出すこともあります。成年後見監督人が決まっていれば登場することもありますが、主となる登場人物は成年後見人と成年被後見人です。

家族信託と成年後見人は始まりと終わりが違う

家族信託と成年後見人制度では、始まりと終わりが異なります。

家族信託は一律に期間が定められているわけではなく、契約内容によっては財産管理が長期に渡るところが特徴です。家族信託の契約内容が世代をまたぐこともあり、財産の管理・運用・処分のニーズに沿ってかなり柔軟に信託の期間を決めることができるようになっています。

成年後見人は裁判所の手続きを経て成年後見がスタートします。成年被後見人が亡くなると成年後見が終了するため、財産管理が終了するのが特徴です。世代をまたぐことが可能な家族信託と比較してみてください。

家族信託と成年後見人では重視するものが違う

家族信託と成年後見人制度では、財産管理の方針が異なります。

家族信託は、財産管理の方針に財産の持ち主である本人や家族の希望を盛り込むことが可能です。「どんな財産管理をしたいか」「誰にしてもらいたいか」などを検討し、柔軟に契約書を作成することができます。まさに、本人のニーズに合わせた財産の管理・運用・処分の方法なのです。

成年後見人制度では、「本人のためになるか」「財産を守ることができるか」が重視されます。たとえば、本人のために「本人のお金で家を二世帯住宅にしたい」と家族が望んでも、裁判所が本人にマイナスになると判断すれば、お金を出すことはできません。本人や家族の希望に沿うかどうかより、適切かつ不利益を被らないかが成年被後見人制度では重視されるのです。

家族信託が本人や家族の希望に合わせた財産管理。成年後見人制度が、本人の財産を守るための財産管理。本人の財産を守るために、本人や家族の希望を通さない可能性がある。このように解釈するとわかりやすのではないでしょうか。

家族信託と成年後見人の身上監護の有無

家族信託と成年後見人制度の大きな違いに、身上監護があります。

身上監護とは、成年被後見人の老人ホームや病院の手続きなどを通して生活をフォローすることです。身の回りの契約や手続きといった細々としたサポートのことを身上監護といいます。よく勘違いされますが、介護ではありません。入院の手続きや、老人ホームの支払いなどが身上監護の一例になります。

成年後見人制度の場合、成年後見人は成年被後見人の身上監護を行います。成年被後見人の財産管理だけでなく、手続きなどを通して生活全般のフォローをするのです。家族信託の場合、身上監護の必要はありません。あくまで、家族信託の契約内容にある財産管理・運用・処分だけを行うことになります。

ただし、家族信託で財産を預かって管理や運用をする家族は、介護や老人ホームの入居、入退院などに関わることが多いはずです。家族信託では身上監護の必要はありませんが、家族として携わる可能性はあります。

家族信託と成年後見人は報酬が違う

家族信託と成年後見人制度では、報酬がまったく異なっているのです。成年後見人制度において成年後見人になるのは、多くの場合が弁護士や司法書士です。成年後見人としての報酬額は裁判所が決定し、成年被後見人の財産から報酬を受け取る仕組みになっています。成年後見人がついている限り、報酬という費用負担が発生するのです。

家族信託は、家族信託契約を結ぶさいに法律の専門家からサポートを受けると、そのぶんの報酬が費用になります。ただ、成年後見人制度のように裁判所が決定するわけではなく、家族信託の内容へと柔軟に盛り込むことが可能です。家族信託では財産管理を家族(親族)などの身近な人が行うため、弁護士や司法書士が成年後見人になるより、総合的に報酬をおさえることができます。

最後に

家族信託と成年後見人制度には似ている部分があります。ただ、5つの点で2つの制度は異なっています。

家族信託と成年後見人制度のどちらが合っているか決めかねている場合は、身上監護や報酬、財産管理の方針などの面から比較検討してみることをおすすめします。事情にあわせて選びたいなら、司法書士などの法律の専門家にアドバイスをもらってはいかがでしょう。