家族信託を使うと「相続対策になる」「認知症のときに助かる」という声を耳にします。しかし、具体的に「どんな使い方」をすると「どのような役に立つ」のか、実生活に置き換えて把握することは難しいはずです。

家族信託の活用を検討する上で参考になる具体的な活用例についてまとめました。

家族信託の5つの活用例

家族信託では、自分の財産を家族(親族)にゆだね管理・運用・処分してもらいます。「お財布を預ける」という想像をするとわかりやすいはずです。

お財布を預けるときは、「このような運用をする」「管理にはこのようなルールを付す」という約束(契約)をして、その約束に沿って家族がお財布を預かることになります。約束があるため、お財布の中身の使い込みを防止するとともに、自分の希望に沿ったお財布の管理が可能です。

柔軟な財産管理・運用・処分を行った家族信託の具体例を見てみましょう。

  1. 認知症の対策として家族信託を活用したケース①
  2. 認知症の対策として家族信託を活用したケース②
  3. 家族信託で相続対策をしたケース
  4. 犯罪被害の対策として家族信託を活用したケース
  5. 事業承継の対策として家族信託を活用したケース

認知症の対策として家族信託を活用したケース①

父親が認知症になった場合、父親は自分で財産の管理や処分ができません。財産の管理ができないということは、財産を動かせないことでもあります。父親が認知症になってしまうと、父親は自分の医療費や生活費を出せないのです。

父親と長男が家族信託の契約を結んでおけば、長男が父親の信託財産を管理しつつ、財産から必要に応じて生活費や医療費を出すことができます。父親に代わって、長男が父親のお財布の管理ができるのです。家族信託により、父親の生活を家族(息子)が財産管理の面からフォローすることが可能になります。

家族信託の活用法として、実際によく使われている方法です。

認知症の対策として家族信託を活用したケース②

父親が賃貸不動産を運用していました。しかし、体調や判断力に不安を覚えるようになり、家族信託で長男に賃貸不動産の運用と管理をお願いすることに。

長男は父親の意見を参考に賃貸不動産の管理をしていたのですが、やがて父親は認知症を患ってしまいました。

認知症の父親が賃貸不動産の運用していた場合、入居者と新しい契約を結ぶことが難しくなります。賃料の管理もできませんし、賃貸不動産を現金化したいと思っても売買契約を結べません。長男が信託財産として管理していれば、父親に代わって適切な管理や契約、売却などができるのです。

家族信託で相続対策をしたケース

父親は財産を孫にも渡したいと考えていました。また、不動産は一族で継ぎたいとも考えていました。

遺言書での相続対策は、自分の相続にしか使えません。自分の相続の次に発生する次の相続(二次相続)のことを自分が指定できないため、遺言だけでは「不動産を一族で継ぐ」というニーズを満たすことができずに困っていました。遺言書にも限界があるのです。エンディングノートに書き記しても、エンディングノートには法的な拘束力も強制力もありません。

「孫にも将来的に財産的な恩恵を与えたい」「一族で不動産を継ぎたい」というニーズを持つ父親は、家族信託を活用して相続対策をしました。

父親は最初に、孫に財産管理をお願いしました。父親は委託者(預ける人)と受益者(利益を受ける人)を兼任する立場です。自分が亡くなったら、次は息子(孫の父親)を受益者に指定し、その次は息子の妻を受益者に設定しました。妻が亡くなると、最終的に不動産をふくむ財産を孫に託すという流れです。この流れを家族信託に盛り込めば、父親のニーズは満たせることになります。

家族信託は登場人物や内容を工夫することで、柔軟な相続対策や世代を超えた財産の承継ができるのです。相続の道筋をはっきりさせることで、相続トラブルの防止に役立ちます。

犯罪被害の対策として家族信託を活用したケース

振り込め詐欺などの詐欺被害が問題になっています。長男は父親が心配だったので、家族信託で父親の財産を預けてもらい、管理することに。

父親のもとに振り込み詐欺の電話がありました。父親は詐欺にだまされてしまい、お金を振り込もうと考えたのですが、長男が財産の管理をしているため、振り込むことができません。詐欺被害を未然に防ぐことができたのです。

家族信託を使えば、財産犯罪から家族を守ることもできます。

事業承継の対策として家族信託を活用したケース

父親は会社を経営していました。息子に事業を承継したいと考えているのですが、父親が持っている会社の株を贈与してしまうと、かなりの課税が懸念されるため、事業承継がなかなか進みません。

そこで父親は、事業承継に家族信託を使うことを検討しました。家族信託によって、自社株式を息子に管理してもらうのです。息子に株を管理してもいながら、税金や相続の対策を進め、事業承継を行いました。

このように、家族信託は事業承継にも利用可能です。今後は事業を継続しないという判断の場合は、家族信託を活用しながら廃業手続きを進めることもできます。

最後に

家族信託にはいろいろな使い方があります。相続対策や認知症対策に使えるほか、財産犯罪対策や事業承継対策にも使うことが可能です。

家族信託は「家族のかたちにあわせて契約内容をオーダーメイド的に組み立てることができる」という特徴を持ちます。自分や家族の将来のために、「家族のかたちにあわせた家族信託」の活用を検討してみてはいかがでしょう。